NHK連続テレビ小説『あんぱん』に主人公のぶの父・朝田結太郎を演じて朝ドラ初出演となった、俳優・加瀬亮(かせ・りょう)さん。
加瀬亮さんといえば、独特な静けさと余白を持つ俳優さんですが、父親が日本を代表する商社・双日の元会長加瀬豊(かせ・ゆたか)氏であることをご存じでしたか?
「父親が双日元会長」という恵まれた環境の中で、どのような経験が加瀬さんの演技に深みを与えたのでしょうか?
この記事では、演技に影響を与えた「3つの経験」に焦点をあてながら、帰国子女としての幼少期や、海外での作品参加などの素顔に迫ります。
知れば知るほど、スクリーンでの存在感が違って見えてくるはずです。
加瀬亮と父・加瀬豊氏のプロフィール

- 生年月日:1974年11月9日(50歳)
- 出身地:神奈川県横浜市
- 学歴:中央大学商学部中退
- 経歴:
- 1998年:中央大学商学部を中退。俳優を志し、浅野忠信さんの所属事務所「アノレ」に入る。
- 2000年:石井聰亙(石井岳龍)監督作『五条霊戦記』で映画デビュー。
- 2003年:映画『アンテナ』で初主演。難解な役柄を演じ話題に。
- 2006年:是枝裕和監督作『歩いても 歩いても』に出演。静かな演技に高評価。
- 2007年:『それでもボクはやってない』(周防正行監督)で主演。
- この演技で2008年「日本アカデミー賞・優秀主演男優賞」受賞。
- 2010年~2012年:ドラマ『SPEC』シリーズ(TBS)で瀬文焚流役を演じ人気に。
- 2016年:事務所「アノレ」から独立。個人事務所「RYO KASE OFFICE」設立。
- 2023年:北野武監督の映画『首』に出演。
- 2024年:『首』での演技が評価され、第47回日本アカデミー賞・優秀助演男優賞を受賞。
- 家族構成:父・加瀬豊、母、本人は一人息子(未婚)
- 趣味/特技:大学時代はウィンドサーフィン部所属(商学部、中央大学)

- 生年月日:1947年2月19日(78歳)
- 学歴:東京大学経済学部卒業
- 職業:総合商社「双日株式会社」元代表取締役会長、アステラス製薬社外取締役、積水化学工業社外取締役
- 経歴:
- 2007年4月:社長(代表取締役CEO)就任
- 2012年4月:会長(代表取締役会長)就任
- 2017年6月:会長退任
- 海外赴任:アメリカ13年、ニュージーランド2年半の実績
- 現在の活動:浦和高校同窓会副会長/経団連中南米地域委員会委員長
- 家族としては、俳優・加瀬亮さんの父として知られ、公的にはほとんど表に出ないものの、背景にある教育理念と行動力が息子のキャリアに大きな影響を及ぼしたと考えられます。
演技に影響した3つの経験

経験①:アメリカ暮らしで培った“生きた英語力”
加瀬亮さんの演技力の根底には、幼少期にアメリカ・ワシントン州ベルビューで過ごした経験が大きく影響しています。
父親の加瀬豊氏(双日元会長)の海外赴任に伴い、加瀬さんは生後まもなくアメリカに渡り、7歳まで現地の学校で学びました。
現地の友達と遊び、学校での授業を受ける中で、自然と英語を習得していったといいます。
この経験は、単なる語学力の習得にとどまらず、異文化理解や柔軟な思考力を養う基盤となりました。加瀬さん自身も、「アメリカでの経験が、今の自分の考え方や価値観に大きな影響を与えている」と語っています。
異なる文化や価値観に触れることで、多様性を尊重し、柔軟な思考を持つことの重要性を学んだのだと考えられます。
また、アメリカでの生活は、加瀬さんにとって「自分を表現する力」を育む場でもありました。
言葉の壁を乗り越え、自己主張やコミュニケーション能力を高めることで、俳優としての表現力にもつながっています。
加瀬さんの演技には、言葉だけでなく、表情や身振り手振りを通じて感情を伝える魅力が備わっており、これもアメリカでの経験が影響していると考えられます。
さらに、アメリカでの生活は、加瀬さんに「自立心」を育むきっかけともなりました。
異国の地で生活する中で、困難や壁に直面することも多かったはずです。
しかし、それらを乗り越えることで、自己肯定感や自信を深め、俳優としての強い意志を持つようになったといいます。
このように、アメリカでの幼少期の経験は、加瀬亮さんの俳優としての基盤を築く上で欠かせない要素となっています。
経験②:存在感を磨いた“帰国後のギャップと努力”
アメリカでの幼少期を過ごした加瀬亮さんですが、7歳で帰国した後は日本語環境に戻ることで、英語力が一時的に衰退したと語っています。
これは帰国子女が直面しがちな“言語のギャップ”です。
この時期、加瀬さんは日本語でのコミュニケーションに慣れながらも、英語を維持・向上させるための努力を続けました。
中学生の頃、かつてのアメリカの友人と会った際に英語が通じにくかった経験から、言語の壁に直面し、「このままではいけない」と強く自覚したといいます 。
そこで彼は、地道な語学学習を開始。
たとえば赤線が引かれた英語参考書や、自分で作成した単語帳を用いて、日々の学びを継続しました。
また、手紙での文通も取り入れ、実践的に英語力を鍛えました 。
こうした地味な努力は、加瀬さんの「丁寧で繊細なセリフ回し」にも現れています。
さらに、この時期の経験は「ギャップを埋めるだけでなく、自らの存在感を磨く大切な機会」になりました。
多文化環境の中で育ったことによる独特の視点が、演技に深みをもたらし、スクリーン上での自然な存在感へとつながっています。
また、高校・大学時代は英語だけでなく、演劇や文学への関心も高まったそうです。
帰国子女としてのアイデンティティと葛藤を抱えつつ、内面を表現する力を培う重要な時期だったのでしょう。
このように、「帰国後の言語ギャップ」と「克服のための地道な努力」が、加瀬亮さんの俳優としての存在感と演技の説得力を育てた、見逃せないポイントだと言えます。
経験③:現場で磨かれた“多言語対応力と臨機応変さ”

加瀬亮さんは、帰国子女として培った語学力を活かし、国内外の映画やドラマに積極的に出演しています。
特に注目されるのは、アメリカやヨーロッパの作品での多言語対応力です。
代表作の一つに、アルゼンチンを舞台にした米映画『ベル・カント とらわれのアリア』があります。
この作品では、加瀬亮さんは実業家の通訳を演じています。
スペイン語をはじめフランス語、ドイツ語、ロシア語など複数の言語が飛び交う中、加瀬さんは英語以外の言語も含むセリフを習得し、現場での変更やアドリブにも柔軟に対応しました 。
こうした多言語対応力は、単なる語学力以上に、「現場での即応性」や「異文化の理解」が求められる演技現場ならではのスキルです。
撮影現場では監督や共演者と多様な言語でコミュニケーションをとり、演技のニュアンスを細かく確認。
これは日本語だけで演じる作品とは異なる臨機応変さを必要とします。
また、海外の撮影では文化の違いによる演出方法の差異も多く、加瀬さんはそれらを理解しつつ、自分の演技に柔軟に取り入れる能力を磨きました。
この経験が、彼の俳優としての幅広さと深みをさらに増すことに繋がっています。
さらに、これらの多言語対応と異文化経験は、作品の中でリアルで自然な演技を実現するための大きな強み。
セリフが単なる言葉ではなく、感情や背景を伴う生きた表現となるのです。
こうして加瀬亮さんは、語学力だけでなく、演技者としての「多面的な対応力」と「国際的な感性」を現場で鍛え上げてきました。
これは、父親の海外勤務という環境から得た基盤と、本人の努力が合わさった結果と言えるでしょう。
父・双日元会長の教育環境が育てた“独立心と多様性の感性”

加瀬亮さんの父親・加瀬豊氏は、大手総合商社「双日株式会社」の元会長。
世界中を飛び回るグローバルビジネスの最前線にいた人物です。
商社マンとしての多忙な日々を送りながらも、家庭内では“自由と責任”を重んじる教育方針を取っていたと言われています。
商社という国際的な舞台で活躍する父親の姿からは、子どもながらに“背中で学ぶ”ことも多かったはずです。
父・加瀬豊氏は「世界を相手にするには、語学だけでなく信頼と誠実さが必要だ」といった考えを大切にしており、これは人と真摯に向き合う姿勢や、丁寧な仕事へのこだわりとして、息子・亮さんの演技にも共通して現れています。
さらに、加瀬亮さん自身はインタビューで「芸能界に入る際、父には反対された」と語っており、これは“親の敷いたレールに乗るのではなく、自分の意思で選び取る”という強い独立心の表れでもあります。
商社マンとして安定した道を知りながらも、あえて不確実な表現の世界に飛び込んだ加瀬亮さん。
この選択には、父から譲り受けた「多様性を受け入れる感性」と「責任ある自由」が色濃く反映されています。
育った家庭が経済的に恵まれていたことは確かですが、それ以上に「世界をどう見るか」「自分は何を選ぶか」という人生観そのものに影響を与えたのが、父・加瀬豊氏の存在だったのではないでしょうか。
まとめ:国際感×経験×教育=芯のある演技へ

加瀬亮さんの静かで芯のある演技は、父・加瀬豊氏の国際的なキャリアと教育環境の影響を色濃く受けて育まれてきたと言えます。
- 母語並みの英語力(アメリカ育ち)
- 努力による語学力回復と継続学習
- 現場で求められる多言語対応力
これらは偶然ではなく、双日の元会長である父の影響が根底にあるからこそ築かれたものではないでしょうか。
アメリカでの幼少期、多文化への適応、そして自ら選び取った俳優という道。
その一つひとつが、彼の“言葉の奥にある感情”や“空気を変える存在感”につながっているのです。
知れば知るほど味わい深い――それが加瀬亮という俳優の魅力なのかもしれません。